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閑さや岩にしみ入蝉の声
して心すみ行のみおぼゆ 音きこえず岸をめぐり岩を這て仏閣を拝し佳景寂寞と とし松栢年旧土石老て苔滑に岩上の院
々扉を閉て物の
梺の坊に宿かり置て山上の堂にのぼる岩に巌を重て山 尾花沢よりとつて返し其間七里ばかり也日いまだ暮ず 殊清閑の地也一見すべきよし
々のす
ゝむるに依て
 
山形領に立石寺と云山寺あり慈覚大師の開基にして
 

蚕飼する人は古代のすがた哉

曽良
 

まゆはきを俤にして紅粉の花
 

這出よかひやが下のひきの声
 

涼しさを我宿にしてねまる也
もてなし侍る も知たれば日比と
ゞめて長途のいたはりさまざまに
志いやしからず都にも折
々かよひてさすがに旅の情を
 
尾花沢にて清風と云者を尋ぬかれは富るものなれども
よろこびてわかれぬ跡に聞てさへ胸と
ゞろくのみ也
此みち必不用の事有恙なうをくりまいらせて仕合したり 流して最上の庄に出づかの案内せしおのこの云やう 篠の中踏分踏分水をわたり岩に蹶て肌につめたき汗を 闇茂りあひて夜る行がごとし雲端につちふる心地して じの云にたがはず高山森
々として一鳥声きかず木の下
あふべき日なれと辛き思ひをなして後について行ある 杖を携て
々が先に立て行けふこそ必あやうきめにも
云て人を頼侍れば究境の若者反脇指をよこたえ樫の らざれば道しるべの人を頼て越べきよしを申さらばと  
あるじの云是より出羽の国に大山を隔て道さだかな
 

蚤虱馬の尿する枕もと
山中に逗留す 封人の家を見かけて舎を求む三日風雨あれてよしなき られて漸として関をこす大山をのぼつて日既暮ければ 国に越んとす此路旅人稀なる所なれば関守にあやしめ 小嶋を過てなるごの湯より尿前の関にか
ゝりて出羽の
 
南部道遥にみやりて岩手の里に泊る小黒崎
・みづの
 
 
五月雨の降のこしてや光堂
記念とはなれり 成べきを四面新に囲て甍を覆て雨風を凌暫時千歳の 珠の扉風にやぶれ金の柱霜雪に朽て既頽廃空虚の叢と 光堂は三代の棺を納め三尊の仏を安置す七宝散うせて  
兼て耳驚したる二堂開帳す経堂は三将の像をのこし
 
 
卯の花に兼房みゆる白毛かな

曽良
 
 
夏草や兵どもが夢の跡
のうつるまで泪を落し侍りぬ 破れて山河あり城春にして草青みたりと笠打敷て 偖も義臣すぐつて此城にこもり功名一時の叢となる 衣が関を隔て南部口をさし堅め夷をふせぐとみえたり 城をめぐりて高館の下にて大河に落入泰衡等が旧跡は のぼれば北上川南部より流る
ゝ大河也衣川は和泉が
秀衡が跡は田野に成て金鶏山のみ形を残す高館に
三代の栄耀一睡の中にして大門の跡は一里こなたに有
おぼゆ 戸伊摩と云所に一宿して平泉に到る其間廿余里ほど
らなどよそめにみて遥なる堤を行心細き長沼にそふて しらぬ道まよひ行袖のわたり
・尾ぶちの牧
・まの
ゝ萱は
かす人なし漸まどしき小家に一夜をあかして明れば又 ひがけず斯る所にも来れる哉と宿からんとすれど更宿 につどひ人家地をあらそひて竈の煙立つ
ゞけたり
とよみて奉たる金花山海上に見わたし数百の廻船入江 に路ふみたがえて石の巻といふ湊に出

こがね花咲

聞伝て人跡稀に雉兎蒭蕘の往かふ道そこともわかず  
十二日平和泉と心ざしあねはの松
・緒だえの橋など
とはなれりける彼見仏聖の寺はいづくにやとしたはる 依て七堂甍改りて金壁荘厳光を輝仏土成就の大伽藍 出家して入唐帰朝の後開山す其後に雲居禅師の徳化に  
十一日瑞岩寺に詣当寺三十二世の昔真壁の平四郎
発句あり 贈らる袋を解きてこよひの友とす杉風
・濁子が

ゝ時素堂松島の詩あり原安適松がうらしまの和歌を
 
予は口をとぢて眠らんとしていねられず旧庵をわか
 
 
松島や鶴に身をかれほと
ゝぎす
 
曽良
寝するこそあやしきまで妙なる心地はせらるれ 帰りて宿を求れば窓をひらき二階を作て風雲の中に旅 ほどに月海にうつりて昼のながめ又あらたむ江上に なしいかなる人とはしられずながら先なつかしく立寄 見え侍りて落穂
・松笠など打けふりたる草の庵閑に住
の跡坐禅石など有松の木陰に世をいとふ人も稀
 
雄島が磯は地つ
ゞきて海に出たる島也雲居禅師の別室
にや造化の天工いづれの人か筆をふるひ詞を尽さむ の顔を粧ふちはや振神のむかし大山ずみのなせるわざ をのづからためたるがごとし其気色よう然として美人 ごとし松の緑こまやかに枝葉汐風に吹たはめて屈曲 左にわかれ右につらなる負るあり抱るあり児孫愛すが ものは波に匍匐あるは二重にかさなり三重に畳みて の潮をた
ゝふ
々の数を尽して欹ものは天を指ふす
洞庭
・西湖を恥ず東南より海を入て江の中三里浙江
 
抑ことふりにたれど松島は扶桑第一の好風にして
里餘雄嶋の磯につく 云り日既午にちかし船をかりて松嶋にわたる其間二 誠人能道を勤義を守べし名もまた是にしたがふと 渠は勇義忠孝の士也佳命今に至りてしたはずといふ事な と有五百年来の俤今目の前にうかびて
ゞろに珍し
に古き宝燈有かねの戸びらの面に文治三年和泉三郎寄進 たにましますこそ吾国の風俗なれといと貴けれ神前 きをか
ゝやかす
ゝる道の果塵土の境まで神霊あら
く彩椽きらびやかに石の階九仞に重り朝日あけの玉が  
早朝塩がまの明神に詣国守再興せられて宮柱ふとし
覚らる しけれどさすがに辺土の遺風忘れざるものから殊勝に 舞にもあらずひなびたる調子うち上て枕ちかうかしま 琶をならして奥上るりと云ものをかたる平家にもあらず よみけん心もしられていと
ゞ哀也其夜目盲法師の琵
蜑の小舟こぎつれて肴わかつ声
々につなでかなしもと
 
五月雨の空聊はれて夕月夜幽に籬が嶋もほど近し

 































松尾芭蕉著





西村本




















文学館資料  
山寺
第一集 文学館資料  
尾花沢
第二十二集 奥の細道絵巻-山刀伐峠越え(朝日山法圓寺所蔵) 文学館資料  
出羽越え
第二十一集 奥の細道絵巻-平泉 (朝日山法圓寺所蔵) 文学館資料  
平泉
第三集 芭蕉像写真-日和山公園 (おくのほそ道文学館所蔵) 文学館資料  
石巻
第二十集 芭蕉翁絵詞伝-松島 (義仲寺所蔵) 文学館資料  
松島
第二集 奥の細道図屏風-塩釜 (山形美術館所蔵) 文学館資料
塩釜
第十四集