松尾芭蕉の旅 鹿島紀行
俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
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鹿島紀行
ひろ野の情景、布佐、鹿島






萩は錦を地にしけらんやうにて、為仲が長櫃に折入て、都のつとに持せたるも、風流にくからず。 ひろ野に萩の花が咲く景色は、錦を地面に敷いたようであり、むかし、陸奥に下った橘為仲が、萩の花を長櫃に折り入れて、都への土産に持たせて帰ったというのも、風流なことで、慕わしく思われる。
きちかう・女郎花・かるかや尾花みだれあひて、小男鹿のつまこひわたる、いとあはれ也。 桔梗・女郎花・刈萱・尾花が乱れ合って花を開き、牡鹿が妻を恋い慕って鳴いているのは、たいそう哀れ深いものである。
野の駒、処えがほ(得顔)にむれありく、又あはれ也。 野飼いの馬が、好みの所を探し得て、満足げに群れ歩く様も、同じように情趣に満ちている。
日既に暮かかるほどに、利根川のほとりふさと言処につく。 日が既に暮れはじめるころ、利根川のほとりの布佐という所に着いた。
此川にて鮭のあじろと云ものをたくみて、武江の市ひさぐものあり。 この川で、網代という仕掛けを工夫して鮭を捕り、これを江戸の市で売る人がいる。
宵のほど、其漁家に入てやすらふ。よるのやどなまぐさし。 宵の間、その漁師の家で休息した。夜の宿は、魚の匂いや体臭が入り混じり生臭い。
月くまなくはれけるままに、夜ふねさし下して、鹿島に至る。 月が翳(かげ)りなく晴れたので、夜舟を下して利根川を行き、鹿島に到着した。
ひるより雨しきりに降て、月見るべくもあらず。 昼より雨がしきりに降って、十五夜の月は見られそうもない。
[語 釈]
為仲が長櫃に折入て、都のつとに持せたる
鴨長明「無名抄」の「為仲宮城野の萩ほりてのぼる事」の条に、「この為仲、任果ててのぼりける時、宮城野の萩をほりて、長櫃十二合に入れてもちてのぼりければ、人あまねくききて、京へいりける日は二條大路にこれを見ものにして、人多く集りて、車などあまたたてりけりとぞ」とあるに依る。
きちかう
きちこう。桔梗(ききょう)の異称。
かるかや
刈萱。イネ科の多年草。
尾花
ススキの花穂、またはススキ。
小男鹿
さおしか。さ牡鹿。上の桔梗、刈萱、尾花と同じ「秋」の季語で、牡鹿が秋に牝鹿を呼ぶ声は、古くから詩歌に詠まれる。「さ」は語調を整えるための接頭語。
武江の市
武蔵国江戸の市。
ひさぐ
販ぐ。売る、商うの意。

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