松尾芭蕉の旅 野ざらし紀行
俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
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野ざらし紀行
伊賀上野で越年




爰に草鞋を解き、かしこに杖を捨て、旅寝ながらに年の暮ければ、 こちらで草鞋のひもを解き、あちらで杖を手放して旅寝をつづけるうちに、年の暮れを迎えたので、
_年暮ぬ笠きて草鞋はきながら 笠を着け、草鞋をはいて、実に長い旅であった。こうして、甲子の年が暮れたのであるよ。
といひいひも、山家に年を越て、 などと言い言いしながら、故郷の山家で新年を迎えて、
_誰が聟ぞ歯朶に餅負ふ丑の年 背に餅を負った牛が歩いているなあ。そういえば今年は丑の年であるよ。はて、牛追いをしているのは、どこの家の婿だろうか。そこかしこに、さまざまに想い出がよみがえる故郷の正月であることよ
 
[語 釈]
誰が聟ぞ歯朶に餅負ふ丑の年
貞享二年の歳旦吟。石河積翠園の「芭蕉句選年考」(寛政四年)に「按ずるに、在辺にて舅(しゅうと)のかたへ初春のことぶきに、鏡餅を祝ひて贈るなり」とあって、かつて伊賀上野周辺に、正月を祝って、妻の親許に鏡餅を贈る習俗があったことを伝えている。


本句にある「歯朶に餅負ふ」は、葉裏の白を白髪に例えて長寿、めでたいものとして正月飾りにも使われるウラジロ(歯朶、羊歯)に鏡餅を載せ、その餅を牛に背負わせて妻の実家に運ぶ、故郷の習わしについて触れたもの。


鏡餅には、ウラジロのほかに、代々の繁栄を願って「ダイダイ」や、新しい葉が生長した後に古い葉が譲って落ちることから子孫繁栄を祈願して「ユズリハ」や、「喜ぶ」に掛けた「コンブ」が添えられるなど、正月には、このような掛詞、縁語などの言語文化を最大限に活用し、数々の縁起物が用意された。


本句において、芭蕉は、こうした伝統文化にあやかり、貞享二年が乙丑(きのとうし)の年であることに因んで「牛」に掛け、更に、「牛追い」からの牛の縁語「追い、追ふ」を「負ふ」に掛けており、古風たる貞門俳諧を源流とする芭蕉の、当句に寄せる本情が「此古体(古風な詠み方)に人のしらぬ悦有(よろこびあり)」(服部土芳編「三冊子<赤雙子>」安永五年序)の言葉で明らかにされている。

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