松尾芭蕉の旅 おくのほそ道
俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
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おくのほそ道
仏五左衛門の章段










卅日、日光山の梺に泊る 三十日、日光山の麓の家に泊る。
あるじの云けるやう、「我名を佛五左衛門と云。 そこの主人が言ったことには、「私は名を仏五左衛門といいます。
萬正直を旨とする故に、人かくは申侍まゝ、一夜の草の枕も打解て休み給へ」と云。 何につけても正直を信条としていることから、世間の人は仏などと申しておりますので、一夜の旅寝もくつろいでお休みになってください」という。
いかなる仏の濁世塵土に示現して、かゝる桑門の乞食順礼ごときの人をたすけ給ふにやと、あるじのなす事に心をとゞめてみるに、 どのような仏が、けがれたこの世にあらわれ、このような僧侶姿をした乞食、順礼などという者をお助けになるのかと、主人の振る舞いに心をとどめてみると、
無智無分別にして、正直偏固の者也。 ただ智恵や分別を利かしているわけではなく、正直一点張りの人物であり、
剛毅木訥の仁に近きたぐひ、気禀の清質尤尊ぶべし。 まさに、「論語」にある「剛毅朴訥仁に近し」を地でいくような人物で、この生まれつき清らかな気立ては、最も尊ぶべきである。
  
[ 旅のあらすじ ]

四月一日(新暦五月十九日)、朝八時半ごろ、小雨が降る中、鹿沼を立って例幣使街道、さらに今市から日光街道に入り、一路日光を目指した。本街道の最終宿、鉢石宿に到着したのは正午ごろだった。一行は、その足で日光山内に入り、東照宮参詣を果たした。当夜の宿は、「随行日記」に「其夜日光上鉢石町五左衛門ト云者ノ方ニ宿」と記された「仏五左衛門」宅だが、その位置など詳細は不明である。

芭蕉が通行した例幣使街道[
資料]は、京都から日光東照宮に遣わされた勅使(例幣使)が利用した日光街道の脇街道で、勅使は京都から倉賀野宿(群馬県高崎市)まで中山道を通り、倉賀野から例幣使街道に入った。本街道は、玉村、柴、木崎、太田の宿を経て楡木(栃木県鹿沼市)に至り、楡木で壬生通、今市で日光街道に合流する。

例幣使街道の小倉[
資料]・今市間に見られる杉並木は、日光街道や会津西街道の杉と同じく、川越城主・松平正綱(徳川譜代の家臣)と子正信によって、二十万本余の杉苗が二十年間にわたって植えられたもので、現在も一万三千本以上が残っている。
光太寺(伝芭蕉一宿) 例幣使街道・小倉 例幣使街道・文挟 今市の追分 日光街道・日光市内
 
 
 





仏五左衛門

[語 釈]

卅日、日光山の梺に泊る
宿泊の日を「卅日(みそか。三十日)」としているが、曽良の「随行日記」に「四月朔日 (中略) 日光ヘ着。(中略) 未ノ下尅迄待テ御宮拝見。終テ其夜日光上鉢石町五左衛門ト云者ノ方ニ宿」とあることから、実際は四月一日であったことが分かる。また、元禄二年の三月は小の月で、晦日(みそか)は二十九日となる。これを「三十日」としたのは、切れのよい日付にするための虚構、宿泊日を一日ずらしたのは、参詣の日「(四月)一日」を強く印象づけるための虚構と見られる。
草の枕
「草枕」と同じく「旅寝」の意。旅の夜に、草を結んで枕としたことから。
濁世塵土
じょくせじんど。濁りけがれたこの世。「濁世」は「濁りけがれた世」、「塵土」も同義。鹽竈神社の章段では、「かゝる道の果、塵土の境まで」と、「塵土」を「国土」の意で使用。
桑門の乞食順礼ごときの人
「桑門」は僧侶。「乞食(こつじき)」は、桑門の行の一つで、家々に食を乞い求めて歩くこと、またはその人。
無智無分別
ここでは「智恵・分別が無い」の意ではなく「(成果を期待して)智恵や分別を利かしているわけでなく」の意。
正直偏固の者
かたくなに正直な人。正直一点張りな人。
剛毅木訥の仁に近き
「論語」子路篇の「剛毅木訥近仁(剛毅木訥、仁に近し)」に拠る。「剛毅」は、意志が強固なこと。「木訥」は、純で飾り気のないこと。
気禀の清質
生まれつき清らかな気質(気立て)。「気禀(きひん)」は「持って生まれた気質」。

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「おくのほそ道」のテキストについて


本テキストは、俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
および、FLASHムービー「 おくのほそ道を行く」の副読本
としてLAP Edc. SOFTが制作したものです。




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