松尾芭蕉の旅 おくのほそ道
俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
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おくのほそ道 二十三
塩釜の章段










五月雨の空聊はれて、夕月夜幽に、籬が嶋もほど近し。 五月雨の空がいささか晴れて、夕月がほのかに照らし、籬が島も間近に見える。
蜑の小舟こぎつれて、肴わかつ声々に、つなでかなしもとよみけん心もしられて、いとゞ哀也 漁師の舟が連れ立って漕ぎ帰り、魚を分け合う声を聞くいていると、古人が「つなでかなしも」と詠んだ気持ちも分かり、いっそうしみじみとした心地がするものだ。
其夜、目盲法師の琵琶をならして奥上るりと云ものをかたる。平家にもあらず、舞にもあらず その夜、盲目の法師が琵琶をひきながら奥浄瑠璃というものを語った。平家琵琶でもなく、幸若舞の曲でもない。
ひなびたる調子うち上て、枕ちかうかしましけれど、さすがに辺土の遺風忘れざるものから、殊勝に覚らる。 いなかめいた調子で声を張り上げて語るので、枕元から近くかしましいのだけれど、さすがに片田舎に残る昔からの文化を忘れずに伝えているものだと、けなげに感じたことである。
   
[ 旅のあらすじ ]
五月八日(新暦六月二十四日)、仙台から多賀城、塩釜と旅し、そして多賀城に戻っての歌枕探訪と、朝から精力的に歩いた芭蕉一行は、仙台の加右衛門が紹介してくれた治兵衛の旅宿で草鞋をぬぎ、銭湯に浸かって一日の疲れを癒した。

治兵衛の宿は、今は無き鹽竈神社別当寺「法蓮寺」の門前にあった。その位置は、鹽竈神社の裏参道の入り口付近で、法蓮寺の建物で唯一現存する書院「勝画楼」が、一森山の東端にその名残をとどめている。


 
 
 




23
塩釜

[語 釈]

籬が嶋
塩釜湾に浮かぶ小島[資料]で、島内に曲木神社を祭る。次の歌などに詠まれた歌枕。

わがせこを宮こにやりてしほがまの
 まがきのしまの松ぞこいしき 東歌
(「古今和歌集」) 
  まかきの島
面影のなを忘られて見ゆるかな
 まかきの島とむへもいひけり 能因
(「能因集」)


かつては、塩釜湾にぽつりと浮かぶ島[
資料]だったが、昭和三十年代に行われた湾内埋め立てによって海岸線がかなり東側に移動し、今は、陸地との距離は20mほどしかない。
蜑の小舟こぎつれて、肴わかつ声々に、つなでかなしもと
よみけん心もしられて、いとゞ哀也

「つなでかなしも」は、次の歌からの引用。歌意は、みちのくはどこも情趣に富んでいるが、塩釜の浦で舟をつないで漕いでいる光景がとくに心にしみておもしろいものだ。

みちのくはいづくはあれどしほがまの
 浦こぐ舟のつなでかなしも  東歌
(「新古今和歌集」)


「蜑(あま)」は「海人」とも書いて「漁夫」の意。


「つなで(綱出)」は「船(舟)につないで引く綱」のこと。


「かなし」は、ここでは「心にしみておもしろい」の意。
奥上るり
奥浄瑠璃。江戸時代に、目の不自由な人が三味線や扇拍子に合わせて語った古浄瑠璃。仙台藩に伝えられたので仙台浄瑠璃とも。
平家にもあらず、舞にもあらず
「平家」は「平家琵琶」のことで、平家物語を琵琶に合わせて語るもの。

「舞」は、室町時代に流行した舞曲「幸若舞」のことで、本文の「舞」は、その曲。「幸若舞」の名称は、これを創始した桃井直詮の幼名「幸若丸」に因むもの。
ひなびたる調子うち上て、枕ちかうかしましけれど
橘南谿著「東遊記」にも、塩釜の旅宿で浄瑠璃などの「かしまし」さに閉口したエピソードが見られる。

出家の小唄、浄瑠璃、さすがにふしつたなく、殊に奥なまりにて聞も苦し、妓女のひける三味線は薩摩などにある六調子といふに似たり。其かまびすしさいふもさらなり。
(「東遊記[
資料]」)
辺土の遺風
「辺土」は、都から遠く離れた土地のこと。片田舎。
「遺風」は、昔から伝わっている風習や習慣。昔から伝わる文化。

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「おくのほそ道」のテキストについて


本テキストは、俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
および、FLASHムービー「 おくのほそ道を行く」の副読本
としてLAP Edc. SOFTが制作したものです。




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