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山崎藤吉著 「芭蕉全傳」
編  第 章 延宝時代談林派の概況
_ p.16
この頃の京都
・大阪に於ける談林派
 
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第五章 延宝時代談林派の概況

延宝三、四年頃から同七、八年頃まで四、五年間、芭蕉が談林派の人々と交遊して居た際、江戸の俳諧師の大部分は談林派に共鳴した、此の一派を江戸談林と称した、此頃の京都、大阪に於ける談林派は、どんな有様であったか、一寸夫れを述べたい。

大阪で談林風が始めて興ったのは寛文の末頃で、芭蕉が伊賀で「貝おほひ」を奉納した少し前頃のことである、爾来談林の勢力が発展して来て、阿蘭陀派西鶴、外題学者惟仲などが有名であったし、京都では半伝連社高政が勢を得て居た、宗因は、此の談林の高潮に乗って、江戸の俳諧を征服せんが為に、延宝三年に江戸へ下って来たのである。

延宝六年、江戸の談林派は、「江戸八百韻」を公開し、京都の談林派は「都五百韻」を公開して、大に談林派を鼓吹してから、江戸も京都も談林に吹き捲られた形であった。併し芭蕉は、「江戸八百韻」には加入して居なかった、といふのは談林派にいや味がさして来たからであらう、其翌年高政は、宗因を大阪から自分の亭に請待して、会席を開催した、其時宗因は。

    末しげれ守武流の惣本寺


(九六頁)

 








_ と吟じて挨拶の祝ひをした、惣本寺とは高政のことである。是は延宝六年に、高政が「惣本寺俳諧中庸姿」を板行して、大に貞徳派に打撃を加へたのを祝したのである。

之を見た貞徳派の京都の俳士中島随流は憤懣に勝へず、「破邪顕正」を著はして、

宗因の邪詼は子夏の流れにして、異端の狂者口才のあふれ者なり。

と罵倒して、さて云はく。

(上略)此外京、江戸、大坂在々、所々に到て、無倫のやから蜂起する事不勝計、然共名もなく詼士のかずに入べきものならねば論ずるに足らず、去ながら、余り無法に誤るは万人の害なり、或は歳旦の三物を七組、八組独吟にして板行し、古来の式法を破却し、邪流を興す、是摂州異端(宗因)の狂者也。

と言った、此時貞徳派荻野安静の門下似船も亦、既に談林風に変って居たので、随流は之をも罵
(ののし)って。

爰に又、洛下に同腹中の狂者あり、蘆月庵鶏卵坊似船といふ、此俳士は、貞徳翁源氏の執筆せし安静子といひし正風俳諧の流なり、手跡拙なからず、器用の口才なりしが、如何なる天魔の入かはり、異風異形の島ものとはなりけるぞや、されば、惟中は似船が弟子か、但似船は惟中が弟子か。

と言ひ、更に鋒を転じて、伊丹の上島鬼貫の新俳をも罵って。

(上略)是伊丹の狂乱体なり、(中略)又此伊丹の狂者の風俗は、又似船に似せて其さま田舎なり。

と言った、是は新派の徒が、先哲の作例なきことを今様の発明なりとなし、古風を捨て我見を張ることを痛撃したも


(九七頁)

 
_ ので、実に延宝八年三月のことであった。

随流の「破邪顕正」を見て、宗因門下の鏘々
(しょうしょう)たる岡西惟中が「破邪顕正返答」を板行して、随流の説を反駁(はんばく)した、其反駁の論を掲載すべきであるけれども、長くなるから割愛する。

之に対して随流が又、「俳諧猿黐(さるもち)」を刊行して惟中の返答を駁し、論難が益々劇しくなった、爾来之に関して「よりまさ源氏供養あつかひ草」「行司板二つ盃」「破邪返答評判」等が、次々に世に出て、新古両派の論争が止まなかった。

上に挙げてある上島鬼貫は、談林派ではない、別個の新派で、伊丹流派と称された派である、新派だといふので巻きぞへを喰ったものである。

斯くの如く、諸種の新俳が勃興したり、古派と新派が闘争したりして、俳壇に統一が無かった、惟中は此の状態を見て、談林派もやがて亡びんとて、大に感慨を漏らした、其惟中の感慨。

今の俳風も、江戸、京、大坂面々の流を立て、専ら無心所着のみ好むこと、山崎宗鑑より今此時に当りて俳諧乱逆の模様なり、其故は、京、江戸、大坂の俳士、昨日の作今日は古しとて、春もて遊ぶ風儀、秋は用ひず、去年の格、今年はかはりぬ、これらを板行して国々へ下す、遠国波涛の末にやや用ひて、斯くもあらんかと、元しなれし風格を五句、三句改め、少しもとづく中に、又異風の体をとり行ふ故、天下の俳諧一日も安堵の作意をめぐらさず、彼の守武がもてあそびし千句の楽はややつき、梅翁(宗因)の好みし句体の軽さやみなん事、

(九八頁)

 
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_ 心ある人眉をひそめ、聞く人唇を動かす、是俳諧に主たるものを立てず、面々の家を立てんとするより斯かる事になりぬ、俳門に学士無きが致す所、なげくべし。・・・

と言った、其通り、群雄割拠の姿で、統一者が無い為である、併し江戸では斯うした京、大坂の闘争のやうな劇甚な闘争は無かった。


(九九頁)

 







編  第 章 延宝時代談林派の概況 p.16

山崎藤吉著「芭蕉全傳」   第1版発行:明治36年  第2版:大正5年  第3版:昭和10年、16年

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