眠猫と猿の彫刻について
 
日光東照宮の各社殿には、人物や動物など数多くの彫刻が施されているが、中でも、東回廊の「眠猫」や神厩舎の「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿が最も知られている。しかし、眠猫の裏側に見られる「竹に雀」や神厩舎の他の彫刻については鑑賞の機会が多くないように思われる。ここでは、猫を天敵とする雀の彫刻や、馬を守るといわれる猿の彫刻すべてにスポットをあてて紹介している。
眠猫 と 竹に雀
眠猫
眠猫 陽明門を入って右に進むと、奥社への参道入口・坂下門があり、その手前の潜門の上に「眠猫」の彫刻が見られる。やや離れた位置から鑑賞することになるため、小振りの彫刻が更に小さく見える。
眠猫の作者は昔から左甚五郎といわれるが、左甚五郎は架空の人物である。
家康の墓の入口に据えられた動物が猫であることについては諸説あるようだが、目をつぶって寝ている図柄は、徳川の世が、平和で敵対しないものであることを印象付けようとしたものだろう。
 
竹に雀
竹に雀 眠猫の裏側に「竹に雀」の彫刻がある。猫は、雀がいることに気付けば、10匹中10匹が雀を襲うだろう。雀にとって猫はまさしく天敵なのである。そんな雀が2羽、眠った猫の裏側でくちばしを寄せ合っている。
平和な時代を表すに眠った猫だけでは足りず、そばに雀さえ据えてこれを強調した、ということになるのだろうか。
ちなみに「竹に雀」は伊達家の家紋である。 
神厩舎に見られる8面の猿の彫刻
母と子のくつろぎ [神厩舎北側、左から 1]
母と子のくつろぎ
 
母猿と子猿が、実をたわわに付けた琵琶の木の傍らで安楽なときを過ごしている。母親をゆったりとした表情で見遣る子猿の表情が印象的。しかし、母猿は警戒を怠らず、額に手をかざして周囲の様子をうかがっている。母と子の絆の強さを表現している。
 
三猿 [2]
三猿
 
親もとを離れる前に、世間の悪いことを見たり、聞いたりせず、また、人を傷付けるようなことを言ってはいけないと、兄弟三猿に対して親が戒めているとする見方もあるが、自分に都合の悪いことがあれば、見ざる、聞かざる、言わざるで世の中を切り抜けなさいという、処世術の教育ともいわれる。
 
親もとを離れた猿 [3]
親元を離れた猿
 
親もとを離れ独立した猿の姿がある。右寄りの位置に体を丸めてたたずみ、世間に対して横向きである。将来に対する不安を表すか。表情はかなり厳しい。
仲間と青雲の志を・・・ [4]
仲間と青雲の志を・・・
 
体を丸めてたたずんでいた猿に仲間ができ、動きのある、はつらつとした姿に変貌している。右の青さが、青雲の志をもって空を見上げていることを暗示しているといわれる。
新たな展開 [神厩舎西側、左から 1]
新たな展開
 
ここから神厩舎西側の彫刻となり、起承転結の「転」にさしかかった猿の姿が見られる。
左端につがいと見える二匹の猿がいる。一方はじっと下を見、もう一方はその背に手をかけて不安そうに前を見ている。中心部には相手を持たない一匹の猿が、厳しい表情で木の上に座っている。
 
恋愛中の猿 [2]
恋愛中の猿
 
つがいの猿は、2匹だけになって楽しいはずなのだが、なんとなくしっくりしない。おそらくは、左が雌で、なにかためらった感じで固まった方が雄なのだろう。
 
新婚の猿 [3]
新婚の猿
 
全8面の中で、ここに見られる猿が一番ゆったりした表情をしている。最後に妊娠した姿が見られるので、このつがいの猿は、さしづめ新婚の猿といったところだろう。
しかし、左下に注目すれば波は穏やかならず。人生、波瀾万丈を意味するか。
 
妊娠した猿 [4]
妊娠した猿
 
しあわせそうな妊娠した猿の表情が印象的。子供が産まれると、一番上の彫刻に戻る。
全8面のシーンが猿の一生ではなく、出生から出産までであることに興味をひかれる。
「一生」となれば「死」もある。馬を守る猿に死は見せられないという趣旨か。
 


  ○猿の写真は、クリックして拡大できます。
 
○猿の彫刻で、「三猿」以外のタイトルはライターが自由に付したものです。
 
 
【参考文献】 高藤晴俊著「日光東照宮の謎」(講談社現代新書)

 

 
  
俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡
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第18集 芭 蕉 と 日 光
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