松尾芭蕉・おくのほそ道文学館
おくのほそ道序文

【出典】 俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡  特集「芭蕉と深川界隈」  [文学館目録]
目録 月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。 次頁
「おくのほそ道」芭蕉句集  草の戸も住替る代ぞひなの家 (くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ)
1 芭蕉記念館 芭蕉記念館・句碑 [句碑建立地]
江東区
芭蕉記念館
[句解釈]   人の世の移ろいにならい、草葺きのこの家も、新たな住人を迎えることになる。これまで縁のないことではあったが、節句の頃には、にぎやかに雛をかざる光景がこの家にも見られるのであろう。
   
上の句は、元禄2年(1689年)3月、「おくのほそ道」の旅直前に詠まれたもので、岐阜の門人安川落梧宛、同月23日付書簡に、その草案にあたる「草の戸も住みかはる世や雛の家」の句が見られる。その後、推敲を経て上の句形で「おくのほそ道」に採録された。

次に記す落梧宛書簡は、芭蕉がいつごろ採荼庵へ転居し、いつ「おくのほそ道」の旅に出る予定であったかなどを伝える重要な文献で、本書簡は群馬県の三国路紀行文学館に所蔵されている。
御同境又三郎殿御下りの砌(みぎり)、芳翰(ほうかん)に預り、殊に小紙一束堅慮に懸けられ、忝く存じ奉り候。愈(いよいよ)其元(そこもと)俳諧も隆盛の由、御手柄感心斜めならず候。野生、とし明け候へば又々たびごこちそぞろになりて、松島一見のおもひやまず、此廿六日江上(こうしょう)を立ち出で候。みちのく・三越路の風流佳人もあれかしとのみに候。
はるけき旅寝の空をおもふにも、心に障らんものいかがと、まづ衣更着(きさらぎ)末草庵を人にゆづる。此人なん、妻を具しむすめを持たりければ、草庵のかはれるやうをかしくて、
草の戸も住みかはる世や雛の家
三月廿三日              ばせを
落梧雅丈
御連中へ然るべく頼み存じ候。取り込み候故、一紙申し残し候。
尚々、秋芳軒主御状に預り忝く存じ候。


○「おくのほそ道」の出立日については「芭蕉と旅立ち」の「芭蕉について」参照。
おくのほそ道 現代語訳
序   文
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、松島の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
 草の戸も住替る代ぞひなの家
面八句を庵の柱に懸置。
月日というのは、永遠に旅を続ける旅人のようなものであり、来ては去り、去っては来る年もまた同じように旅人である。船頭として船の上に生涯を浮かべ、馬子として馬の轡(くつわ)を引いて老いを迎える者は、毎日旅をして旅を住処(すみか)としているようなものである。古人の中には、旅の途中で命を無くした人が多くいる。わたしもいくつになったころからか、ちぎれ雲が風に身をまかせ漂っているのを見ると、漂泊の思いを止めることができず、海ぎわの地をさすらい、去年の秋は、隅田川のほとりのあばら屋に帰ってクモの古巣を払い、しばらく落ち着いていたが、しだいに年も暮れて、春になり、霞がかる空をながめながら、ふと白河の関を越えてみようかなどと思うと、さっそく「そぞろ神」がのりうつって心を乱し、おまけに道祖神の手招きにあっては、取るものも手につかない有様である。そうしたわけで、ももひきの破れをつくろい、笠の緒を付けかえ、三里のつぼに灸をすえて旅支度をはじめると、さっそくながら、松島の名月がまず気にかかって、住まいの方は人に譲り、旅立つまで杉風の別宅に移ることにして、その折に、

人の世の移ろいにならい、草葺きのこの家も、新たな住人を迎えることになる。これまで縁のないことではあったが、節句の頃には、にぎやかに雛をかざる光景がこの家にも見られるのであろう。
と発句を詠んで、面八句を庵の柱にかけておいた。


本文・曽良随行日記の現代語訳および句の解釈

LAP Edc. SOFT

松尾芭蕉・おくのほそ道文学館


<TOP>


俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡


底本について

「おくのほそ道」の本文は、素龍清書の「西村本」を底本としています。
 
句読点や章段ごとの見出しは「俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡」
の中で任意に付したものであり、
「おくのほそ道」の本文に存在するものではありません。


掲載しているデータについて
 
掲載しているテキストや写真の無断使用・転載を禁止します。


Copyright(C) 2000-2006  LAP Edc. SOFT.  All Rights Reserved.
 
Maintained online by webmaster@bashouan.com
 
LAP Edc. SOFTのホームページ

 
LAP Edc. SOFTのホームページ