松尾芭蕉・おくのほそ道文学館
草加の章段

【出典】 俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡  第16集「芭蕉と草加」  [文学館目録]
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公園内の芭蕉像 橋名由来碑
奥の細道旅立ち300年を記念して、平成元年に「芭蕉像を作る会」が結成され、平成3年(1991年)札場河岸公園に設置された。像は南方、すなわち千住方面を見返している。これは、別れを惜しんで見送る門人たちを芭蕉が振り返って見ている、といった姿を表しているのだろう。 百代橋の南詰付近に建つ橋名由来碑。碑面に「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」の文字を刻む。
橋の北詰付近には、「おくのほそ道」の草加の章段を刻む松尾芭蕉文学碑が建ち、その北隣に、「その日ようよう草加という宿にたどり着にけり」と刻する奥の細道文学碑もある。
  
おくのほそ道 現代語訳
草   加
ことし元禄二とせにや、奥羽長途の行脚只かりそめに思ひたちて、呉天に白髪の恨を重ぬといへ共、耳にふれていまだめに見ぬさかひ、若生て帰らばと、定なき頼の末をかけ、其日漸早加と云宿にたどり着にけり。痩骨の肩にかゝれる物、先くるしむ。只身すがらにと出立侍を、帋子一衣は夜の防ぎ、ゆかた・雨具・墨筆のたぐひ、あるはさりがたき餞などしたるは、さすがに打捨がたくて、路次の煩となれるこそわりなけれ。 ことし、元禄二年にあたるのだろうか、奥羽への長旅をただなんとなく思い立ち、遠い辺境の空のもとで辛苦のために白髪になってしまうようなことが度重なろうとも、話に聞く未見の土地を訪ね、もし生きて帰ることができればと、かすかな望みをかけて歩を進め、その日、ようやく早加(草加)という宿にたどり着いたのだった。やせ細って骨ばる肩にかかる荷でまずは苦しむこととなった。ただ身一つで旅立とうとしたのだが、夜の寒さを防ぐ紙子一着、ゆかた、雨具、墨筆のたぐいは欠かすことができず、あるいは断れずに受け取った餞別もやはり捨てることができず、道すがらの苦労となったのは仕方のないことである。
  
曽良随行日記
元禄2年(1689年)3月27日(新暦5月18日)
原 文 現代語
一 廿七日夜
カスカベニ泊ル。江戸ヨリ九里余。
一 廿七日夜
粕壁(春日部)に泊る。江戸より九里余り。
 
◇一里:約4km ◇一丁(町):約109m ◇一間:約1.8m


第1日目の宿泊地について

「芭蕉と草加」の「芭蕉について」から

「おくのほそ道」には「其日漸(ようよう)早加(草加)と云宿にたどり着にけり」とあって、第1日目の宿泊地が草加宿のように読みとれるが、曽良の随行日記には「廿七日夜 カスカベニ泊ル。江戸ヨリ九里余」と記されている。随行日記には創作的な性格がなく、ただ日々の道中を坦々と綴るものであるから、第1日目の宿泊先は、日記にある通り粕壁(春日部)と見ていいだろう。それではなぜ、「おくのほそ道」で「漸早加と云宿に」と記したのだろうか。次の2つの章段を通して読むことにより、そうしたことの背景が見えてくる。

芭蕉は、遥かな未知の国に旅立つ心細さを「前途三千里のおもひ胸にふさがりて」と書き、慣れ親しんだ江戸の地を離れ、友や門人と別れる切なさを「幻のちまたに離別の泪をそゝぐ」と叙している。それゆえに、後ろ髪を引かれる思いで「行道なをすゝまず」というのである。ところが、延々たる千住宿の街道を過ぎたあたりから、「路縦横に踏で」(飯塚温泉の章段)といった風に威勢よく足を運び、粕壁宿までの6里28町を一気に旅したという筋書きでは、「行春や鳥啼魚の目は泪」の句が霞んでしまい、「前途三千里」の旅についての深憂ないしは悲壮感が見えてこない。こうしたことから、旅の初日に草加宿にたどるのがやっとだったと虚構し、「其日漸早加と云宿にたどり着にけり」とすることにより、2つの章段に一貫した旅の不安を塩梅でき、同時に、以降の旅の成行きに更なる興味を抱かすことができる、といった判断が成されたように思われる。


本文・曽良随行日記の現代語訳および句の解釈

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曽良随行日記は「俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡」のシリーズ「芭蕉について」からそのまま

転記しています。
ただし、章段によっては、滞在日に合わせて元のテキストを分割して掲載しているのもあります。

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俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡

第16集 芭蕉と草加


底本について

「おくのほそ道」の本文は、素龍清書の「西村本」を底本としています。
 
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