松尾芭蕉・おくのほそ道文学館
大石田最上川の章段

【出典】 俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡  第23集「芭蕉と大石田」  [文学館目録]
前頁 最上川のらんと、大石田と云所に日和を待。 次頁
「おくのほそ道」芭蕉句集  五月雨をあつめて早し最上川 (さみだれを あつめてはやし もがみがわ)
23 芭蕉乗船の地 芭蕉上陸の地 [句碑建立地]
(左)新庄市本合海
(右)庄内町清川
[句解釈]   数々の山川から五月雨を集めてきた最上川は、ここに至り、更に両岸の山から直接水を集めて満ち満ちて、滑るような勢いで流れていく。
   
本句は、元禄2年(1689年)5月29日(新暦7月15日)、止宿先の高野一栄宅において「さみ堂礼遠あつめてすゝしもかミ川」の句形で第一声を上げた。芭蕉、一栄、曽良、川水の四名による「一巡四句」の発句として詠まれたものだった。本連句は、翌晦日に、四吟歌仙「さみだれを」の巻として満尾している。
 
さみ堂礼遠あつめてすゝしもかミ川 芭蕉
 岸にほたるを繋ぐ舟杭       一栄
 爪ばたけいざよふ空に影待ちて   曽良
 里をむかひに桑のほそミち     川水
 
(「芭蕉真蹟歌仙」より)
船問屋を営む高野一栄宅は、最上川のほとりに構えていたので、川面を渡る涼風がいい具合に俳席の間(ま)に入り込み、内陸特有の蒸し風呂状態を緩和してくれた。芭蕉は、旅の疲れが慰労される有難みを「すゝし」の言葉で表現し、亭主一栄への挨拶句とした。これに応答した一栄の脇句「岸にほたるつなぐ舟杭」は、「新古ふた道にふみまよふ」(おくのほそ道)の地に新俳風を吹き寄す江戸の宗匠を、闇に光を放つ「ほたる」に見立て、歓迎の辞としたものと受け取られる。
しかし、滞留する梅雨前線の影響で雨は断続的に降り続いており、幾筋もの中小河川をして両の山並みから一気に雨水を下す最上川は、連衆の眼前に、茶褐色の激流となってその本性を剥き出し、実際には、「すゝし」、「ほたる」と風流に遊んでいる場合ではなかったと推量される。芭蕉は、この数日後、濁流渦巻く最上川を本合海から清川まで下り、この折の船旅の有様を「水みなぎつて舟あやうし」(おくのほそ道)と叙している。
かくして、高野一栄に示された発句の中七「あつめてすゝし」は、後日、勢いにあふれ、轟音(ごうおん)さえ聞こえさす「あつめて早し」に改案され、出羽国における二大絶唱の一つ「五月雨をあつめて早し最上川」に仕上げられた。
松尾芭蕉真蹟模写展示室-歌仙「さみだれを」の巻
  
おくのほそ道 現代語訳
大  石  田
最上川のらんと、大石田と云所に日和を待。爰に古き誹諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ、芦角一声の心をやはらげ、此道にさぐりあしゝて、新古ふた道にふみまよふといへども、みちしるべする人しなければとわりなき一巻残しぬ。このたびの風流爰に至れり。 最上川を舟に乗って下ろうと、大石田というところで日和を待つ。かつて、ここに古き俳諧の文化が伝えられ、それが実って定着し、盛んに詠まれた頃を忘れずに懐かしがっている。葦笛の響きのような田舎じみた心を、俳諧が慰めてくれるので、これから先の進路について決め兼ねて、旧態依然とした古風俳諧ながらこれを継承していくか、それとも新風の蕉風俳諧を会得するか、迷っているのだが、舵取りしてくれる人がいないので是非に、というので、止むを得ず歌仙一巻を巻いて残した。「風流の初」の田植え唄で幕をあけた「おくのほそ道」の風流体感は、この大石田に蕉風俳諧の種をこぼすという形で結実したことである。
最  上  川
最上川はみちのくより出て、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所有。板敷山の北を流て、果は酒田の海に入。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。白糸の瀧は青葉の隙隙に落て仙人堂岸に臨て立。水みなぎつて舟あやうし。
 五月雨をあつめて早し最上川
最上川は、みちのくから流れ出て、山形あたりを水上(みなかみ)とし、途中、碁点、隼などという恐ろしい難所があり、この先で、板敷山の北を流れ、果ては酒田の海に入る。両岸から山が迫り、川を覆うようであり、そうした中、茂みの中に船を下す。この船に稲を積んだのを、稲船というのだろう。白糸の滝は、青葉の隙間から流れ落ちるのが見え、この上流にあるある仙人堂は、川に面して建っている。水流がみちあふれ、舟が危険である。

数々の山川から五月雨を集めてきた最上川は、ここに至り、更に両岸の山から直接水を集めて満ち満ちて、滑るような勢いで流れていく。
  
曽良随行日記 (大石田新庄)
元禄2年(1689年)5月28日(新暦7月14日)〜6月3日(新暦7月19日)
原 文 現代語
一 廿八日 馬借テ天童ニ趣。六田ニテ、又内藏ニ逢、立寄ば持賞ス。未ノ中尅、大石田一英宅ニ着。両日共ニ危シテ雨不降。上飯田ヨリ一リ半。川水出合。其夜、労ニ依テ無俳、休ス。
 
 
 
一 廿九日 夜ニ入小雨ス。発・一巡終テ、翁両人誘テ黒瀧ヘ被参詣。予所労故止。未尅被帰。道々俳有。夕飯、川水ニ持賞。夜ニ入帰。
 
 
 
〇一 晦日 朝曇、辰刻晴。歌仙終。翁其辺ヘ被遊、帰、物ども被書。
 
 
 
六月朔 大石田を立。辰刻、一栄・川水、弥陀堂迄送ル。馬弐匹、舟形迄送ル。ニリ。一リ半、舟形。大石田ヨリ出手形ヲ取、ナキ沢ニ納通ル。新庄ヨリ出ル時ハ新庄ニテ取リテ、舟形ニテ納通。両所共に入ニハ不構。ニリ八丁、新庄。風流ニ宿ス。
  
 
 
 二日 昼過ヨリ九郎兵衛ヘ被招。彼是、歌仙一巻有。盛信、息、塘夕(澁谷仁兵衛、柳風共)、孤松(加藤四良兵衛)、如流(今藤彦兵衛)、木端(小村善衛門)、風流(渋谷甚兵ヘ)。
 
 
三日 天気吉。新庄ヲ立。一リ半、元合海。次良兵へ方へ甚兵へ方ヨリ状添ル。大石田平右衛門方ヨリも状遣ス。船、才覚シテノスル。
 
一リ半、古口ヘ舟ツクル。合海ヨリ禅僧ニ人同船、清川ニテ別ル。毒海チナミ有。是又、平七方へ新庄甚兵ヘヨリ状添。関所、出手形、新庄ヨリ持参。平七子、呼四良、番所ヘ持行。舟ツギテ、三リ半、清川ニ至ル。酒井左衛門殿領也。
 
 
 
 
平七ヨリ状添方ノ名忘タリ。此間ニ仙人堂白糸ノタキ、右ノ方二有。状不添シテ番所有テ、船ヨリアゲズ。一リ半、厂川。ニリ半、羽黒手向。荒町。申ノ刻、近藤左吉ノ宅ニ着。本坊ヨリ帰リテ会ス。本坊若王寺別当執行代和交院ヘ、大石田平右衛門ヨリ状添。露丸子ヘ渡。本坊ヘ持参、再帰テ、南谷ヘ同道。祓川ノ辺ヨリクラク成。本坊ノ院居所也。
一 廿八日 馬借りて天童に趣く。六田にて、又内藏に逢う。立寄ってもてなしを受ける。午後2時頃、大石田の一英(一栄)宅に着く。両日共に雨降りそうで降らず。上飯田(本飯田。現村山市内)より一里半。川水と出合う。其の夜、疲労により俳諧無く、休息す。
 
 
一 廿九日 夜に入り小雨降る。発句・一巡(各自一句ずつ詠み)終えて、翁(芭蕉)両人を誘い黒瀧(黒滝山向川寺)ヘ参詣。予(曽良)は疲労の為辞退。午後2時頃にご帰宅。道々、俳諧有り。夕飯は川水がもてなす。夜に入り一栄宅に帰る。
 
〇一 晦日 朝方曇り、午前8時頃、晴れ。この日「さみだれを」歌仙成る。翁(芭蕉)其の辺を散策し、帰宅後に各句を清書し仕上げられる。
 
 
六月朔 大石田を立つ。午前8時頃、一栄・川水、弥陀堂迄送る。馬弐匹で、舟形迄送る。その間ニ里。一里半、舟形。大石田より出手形を取り、ナキ沢(名木沢。大石田内)に納めて通る。新庄より出る時は新庄にて取り、舟形にて納めて通る。両関所共に入るに差しつかえ無し。(舟形・新庄間)ニ里八丁、新庄。風流宅に宿す。
 
 二日 昼過より九郎兵衛(盛信。風流の本家)に招かれる。彼是(かれこれ)、歌仙一巻有り。盛信の息子塘夕(澁谷仁兵衛、柳風とも称する)、孤松(加藤四良兵衛)、如流(今藤彦兵衛)、木端(小村善衛門)、風流(渋谷甚兵ヘ)。
 
三日 天気晴れ。新庄を立つ。一里半、元合海(本合海)。次良兵へ方へ甚兵へ方からの添状を渡す。大石田平右衛門方からの添状も渡す。船、工面して乗せてもらう。
 
一里半、古口へ舟を着ける。合海(大蔵村。本合海の上流部)から乗船した禅僧ニ人と同船、清川にて別れる。(芭蕉庵で死去した)毒海長老に因みの有る僧。是又、平七方へ新庄甚兵ヘからの添状を渡す。関所、出手形、新庄より持参。平七の子、呼四良、番所へ持って行く。舟を継ぎ、三里半、清川に至る。酒井左衛門殿領也。
 
平七からの添状、宛先を書き忘れる。此間(古口・清川間)に仙人堂・白糸の滝、右の方に有り。清川関所に渡す添状が無く、役人は船から上げず(本件は、この先、厂川<狩川>、手向と実際に旅が続けられた経緯より、結局、清川で下船が許されたと見るのが順当)。
一里半、厂川(狩川)。ニ里半、羽黒手向。荒町。午後4時頃、近藤左吉の宅に着く。本坊より帰って会う。本坊若王寺別当執行代和交院へ、大石田平右衛門からの案内状。露丸子へ渡す。本坊へ持参、再び帰って、南谷へ同道。祓川の辺りより暗く成る。本坊の院居所。
◇一里:約4km ◇一丁(町):約109m ◇一間:約1.8m


本文・曽良随行日記の現代語訳および句の解釈

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曽良随行日記は「俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡」のシリーズ「芭蕉について」からそのまま

転記しています。
ただし、章段によっては、滞在日に合わせて元のテキストを分割して掲載しているのもあります。

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