大石田と斎藤茂吉について
大石田には、最上川の光輝なる歴史を背景にして、松尾芭蕉、正岡子規、斎藤茂吉らの香りに満ちた文学的大気が立ち籠めている。そうした中にあって、特に山形が生んだ歌聖 斎藤茂吉の面影が色濃く残り、町内のあちこちに歌碑などが見受けられる。
ところ 斎藤茂吉関連
虹ヶ丘の山頂 「最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片」の歌碑。
聴禽書屋 茂吉が昭和21年1月30日から翌年11月3日まで独居した二藤部家の離れ。
聴禽書屋の内庭 「蛍火を一つ見いでて目守りしが いざ帰りなむ老の臥所に」の歌碑。
歴史民族資料館 茂吉関連の資料を展示。
乗船寺の境内 「最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」の歌碑。
茂吉の墓 昭和47年に建立。
田沢沼 「高原の沼におりたつ鸛ひとつ山のかげりより白雲わきて」の歌碑
  
斎藤茂吉は、明治15年(1882年)、現在の上山(かみのやま)市金瓶の農家に、守谷熊次郎・さきの三男として生まれた。西に最上川の支流須川、東に蔵王の山並みを配する牧歌的環境の中に身を置いた茂吉は、少年の頃から春夏秋冬の機微に触れるところとなった。後の自然を細やかに見つめた写実的作風は、この頃までに既に育まれていたものと見られる。


足乳根の母に連れられ川越えし田こえしこともありにけむもの (あらたま)
朝ゆふはやうやく寒し上山の旅のやどりに山の夢みつ (石泉)
陸奥をふたわけざまに聳えたまう蔵王の山の雲の中に立つ (白桃)
たましひを育みますと讐えたつ蔵王のやまの朝雪げむり (小園)
万国の人来り見よ雲はるる蔵王の山のその生けきを (つきかげ)


学業に秀でた茂吉は、同郷の医師斎藤紀一に見込まれて14歳で上京し医学を学ぶ。のちにその養子となり、同家の次女と結婚した。学問の間に、正岡子規の詩文に心を打たれて子規門伊藤左千夫に師事し、作歌活動を開始する。その後、伊藤左千夫とともに、大正・昭和を通じて歌壇の主流をなした「アララギ」に参加し活躍した。

大正2年(1913年)になると、茂吉は、「死にたまふ母」の連作を所収する処女歌集「赤光」を刊行し、新風を香らす作品として一躍注目を浴びた。その後、「あらたま」、「小園」、「連山」、「白き山」など16の歌集を刊行し、生涯に作歌した数は一万七千余に及ぶ。


赤光のなかに浮びて棺ひとつ行き遥けかり野は涯ならん (赤光)
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる (赤光)
のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり (赤光)


茂吉と大石田町との初の関わりは、昭和4年(1929年)の第1回大石田訪問まで遡る。旅の目的は、同町の佐藤家(現在山形市在住)が所蔵する、芭蕉真蹟の「さみだれを」歌仙を実見することにあった。正岡子規が芭蕉を慕い「はて知らずの記」で立ち寄った大石田の地に、茂吉もまた、芭蕉を思慕して訪れたのだった。

その後、2度同町を訪れた後の昭和21年(1946年)1月、疎開先の上山から大石田に移った。茂吉は、2度目の訪問で面識を得、後に茂吉門に入った同町の板垣家子夫氏の力添えにより二藤部兵右衛門家の離れに居住することとなり、住まいを、野鳥の声が聞こえることに因んで「聴禽書屋(ちょうきんしょおく)」と命名し、翌年の昭和22年まで滞在した。

聴禽書屋は、最上川からほど近く、芭蕉が大石田で止宿した高野一栄宅も近隣にあった。板垣氏の屋敷が一栄宅の跡地に構えていることもあり、茂吉にとっては、芭蕉を懐かしむに好都合の環境だった。

そうした中、茂吉は、同年3月「左湿性肋膜炎」を患い床に臥したが、夏までに完治し、その後、町内はもとより、尾花沢、銀山、山寺、出羽三山などに足を運び、精力的に作歌活動に打ち込んだ。中でも、山頂から最上川を見晴らすことができる虹ヶ丘が気に入り、何度も山頂まで上ったという。


最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片 (白き山)
やまひより癒えたる吾はこころ楽し昼ふけにして紺の最上川 (白き山)
最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも (白き山)


茂吉が、
山形の悠久たる自然と大石田の人々と触れ合う中、晩年の64歳から65歳にかけて詠んだ歌の数々は第16番目の歌集「白き山」に収録され、昭和24年(1949年)に刊行された。歌人としてのみならず、「柿本人麿」の研究にも功績を残した歌聖 斎藤茂吉は、昭和28年(1953年)2月70歳にしてその生涯を閉じた。
  
聴禽書屋写真集
  
聴禽書屋 内 部
庭 園 庭 園


 
  
俳聖 松尾芭蕉・みちのくの足跡
総合目次

第23集 芭蕉と大石田
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